誰も取り残さない災害支援⑩=制度化をするということ=

 

☆災害支援の根や幹にする☆

 

 全国には災害が起きた時に駆けつけてくれる、稀有なボランティアの方々がいます。しかし大きな災害になればなるほど、民間のボランティアだけで被災者の生活再建までを支援することは難しいと、伊藤さんは考えています。また、これらのボランティアによって、限りあるリソースの取り合いも予想されるため、ボランティアを取りまとめることで、必要なところに必要な支援を届けることができると考えています。制度化することは災害支援の根や幹を作ることだと例えることができます。災害は通常時にあるものを壊してしまう(誰も取り残さない支援⑨参照)ため、何かが欠けた状況でも根や幹があればそれは枝葉を新しく伸ばしていけます。

 特に期待している点は、行政がやらなければいけないこととして認識していることです。いくら民間団体が生活再建までの支援をやりましょうと言っても、行政に届くことは稀で、今回の秋田市のように国からもやりましょうと伝えられることで、大きく舵を切ることができると考えています。これは制度化を目指す流れの中で起きた、希望とも言えます。

在宅被災者への物資支援の様子

 

☆制度化が必要だと考えた理由☆

 

 伊藤さんが制度化を必要だと考えた理由の1つ目として、支援が届かない人がいる現実を何度も見てきたことがあります。その中には、被災をして困っているにもかかわらず、自分は支援をしてもらうに値しない人間ですと言って、差し出された支援を受け取ることを拒む方もいたそうです。また、東日本大震災では目の前の人を助けていくことはできたが、宮城県内の支援が限界でした(誰ひとり取り残さない災害支援②参照)。支援を届けても届けてもその先にも被災地が続いて、その先への支援は自分には無理だということを伊藤さんは感じていました。そんな時に、同じ基準で同じように被災者へ支援する人や団体が、岩手にも福島にもいるんだと分かれば、日本全国そうなんだと思わないと、自分は耐えられないんだと伊藤さんは話します。

放火に遭った家屋

 制度化をする理由の2つ目として、東日本大震災時にチーム王冠が行っていた支援の仕組みが機能していたという体験があります。大震災当時、チーム王冠では全体像を把握し、必要なものを必要な人に継続して届けることを仕組化していました。定期的に支援を届けているすべての世帯にアセスメントを行い、現状の被災者のニーズに合わせ必要な支援を届け、必要のなくなった支援は終了する判断ができていました。当時は民間団体同士で調査を行っていたため、内容にばらつきができたりなど様々なことが起きました。これが災害支援の制度というレールの上を行政が走りながら、民間団体と協力することで民間の感覚が反映され、行政ではできない支援を届けることが可能となります。その先には、防災相のような災害支援の情報が蓄積されていき、新しい災害にその蓄積が活かされていく仕組みが整備されることがあって欲しいと願っています。

災害危険区域内の未修繕住宅

 

制度化することへの懸念

 

災害ケースマネジメントの制度化を考えるうえで、よく聞く懸念は「決められたこと以外やらなくなるのではないか。」というものです。

伊藤さんはこの懸念に対して、こんなことを話してくれました。この日本には残念なことに、いまだに差別が存在しています。それは災害が起きた時に共助に頼っていると、支援が届かない被災者を生むことにつながります。国によって決められた支援があれば、元の生活に戻るための支援を受けていいという根拠を持って支援を届けることができます。障がいを持っている方々や、過去に犯罪歴のある方々やその身内の方々は、地域外から来るボランティアにとっては、支援を届ける被災者の1人以外の何者でもなくなるのです。

 

・・・(この点においてだけでも、)支援が届く人が増えるなら、

決められたことをやるということに大きな意味があると思う。・・・

 

伊藤さんはこう考えます。

【 話:一般社団法人チーム王冠 代表 伊藤 / 記事:吉田 】

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