誰も取り残さない災害支援⑧=支援の計画性と総合連携=

☆被災者に必要な情報が伝わるために☆

 

 自然災害はどんな人にでも容赦なく襲いかかります。年金でつつましく暮らしている高齢者でも同様です。災害時には被災者のための制度があり、これを活用して、1日でも早く穏やかな暮らしを取り戻すことが理想的です。災害にあったらどんな制度があるのか、被災者に必要な情報が届けられるために、行政ではホームページや公報で情報を案内します。

しかし、前回のブログ『誰も取り残さない災害支援⑦=5つのポイント=』、ケース2で紹介した老夫婦は、その制度が自分たちとどんな関係があるのかよくわかっていなかったという事実があります。ガラケーを持つ老夫婦に、紙とインターネットだけで、情報として伝えるのは不十分だということが分かります。ケース2では、個別訪問していたチーム王冠のスタッフが、この老夫婦が利用できる制度について説明し、本人がその内容を理解したうえで、じゃあ、生活をできるだけ元に戻すためにどうしていこうかということを一緒に考えました。

チーム王冠スタッフでも毎日支援計画を確認しました

この老夫婦の隣の家やまたその隣の家は罹災判定が違うため、制度利用で支給される金額や申請できる制度が異なります。チーム王冠では、それぞれの世帯に合う支援制度の説明を丁寧に行い、本人の暮らしが戻るまでを一緒に考え支援を行いました。現場へのアウトリーチを基本として、しっかりその世帯の状況を把握していたからこそ、その世帯や1人1人に合わせた支援計画を立て、本人と一緒に生活再建を進めていけた事例と言えるでしょう。

1軒1軒の状況を丁寧に聴くアウトリーチ

☆支援の現状から5つのポイントを見る・ケース

石巻市内に大規模半壊の判定の自宅を、貯蓄も制度もすべて使い修繕した男性がいます。

彼の自宅は今でも完全に直し切ることには至っていません。震災当初は夫婦で二人暮らしだったこの男性の自宅は、2人暮らしにしては部屋数の多い大きめの家でした。災害で悪くなったところを放置していると、そこから家屋の痛みが広がってしまうのですが、彼はキッチンや浴室、居間などの修繕を後回しにしてしまい、修繕費用がなくなってしまっています。彼が利用できそうな制度がありましたが、2つのことが原因で制度の利用が進みませんでした。1つは、加算支援金を利用した時、修繕した費用の領収証が全て揃っていなかったこと。もう1つが固定資産税の滞納があったことです。しかし、この固定資産税の滞納は、震災後家屋の修繕でお金が無くなり、年金だけでは支払えなくなってしまった時期のものでした。さらに、彼は震災によって足にケガを負ったことが原因で、歩行が困難となり、仕事も続けられなくなってしまいました。生活環境が変化し、お金がないことへの不安から、体のあちこちに様々な症状が現れ、震災前には通院などほとんどしていなかった彼は、震災後は多い時に6か所に通院していました。医療費について宮城県は、被災者の医療費控除を1年で突然打ち切り、次の1年の空白期間の後に、条件付きで再開しています。この医療費控除が受けられなかった期間の影響を彼は大きく受け、悪循環が今現在まで続いています。早い段階で、彼に出会い、「支援プラン」の作成と実行にあたって、行政・社協・民間・専門家等あらゆる社会資源が全ての情報を共有し、共通の目的に向かって活動していれば、彼の暮らしは今頃穏やかなものになっていたのかもしれません。

被災者1人1人に合わせた生活再建を本人と確認しながら進めていきます

災害が引き起こす副次的な被害

被災世帯への訪問

 災害後には、副次的な被害につながってしまうことが起きます。復旧工事による騒音問題、振動による建物への被害など、本来受けなくても良い苦痛を被災者が受けてしまうのです。また、避難所での生活はもとより、仮設住宅での生活、被災した家屋での生活では、生活環境は当然悪くなり、災害関連死につながることも想定されます。震度がいくつだった、川が氾濫した、火災が起きたという事象だけが災害ではありません。

 

・・・・災害からの復旧・復興の過程で起こる状況の変化への対応も考え、被災者をケアすることが災害ケースマネジメントの目的だし、支援する側(行政)もやれることをやり切れる・・・

 

被災者の1人1人の生活再建を軸にした災害ケースマネジメントによって、被災者の方々は災害による被害を軽減できます。支援者側もこの時にできることをやり切ることが出来るので、その苦労が報われます。やりきれなかったことは、今の問題や課題ととらえ、そこに向き合い改善していく。そこには、未来の被災者を救うことにつなげられる希望があると伊藤さんは話してくれました。

【 話:一般社団法人チーム王冠 代表 伊藤 / 記事:吉田 】

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