誰も取り残さない災害支援⑪=ケースマネジメントをする伴走者=

☆災害支援のおわりの後にあるものは☆

 

 災害支援にかかわる制度には、ほとんどのものに期限が設けられています。その期限が過ぎた時に、まだ日々の暮らしに戻れていない被災者の方々を助けられるのが地域福祉の制度なのではないかと考えます。

大型バスを利用した移動サロン

(一社)チーム王冠の伊藤さんが、目の前の被災者への支援を日々続けていく中で出会ったのは、本来、福祉の制度につながっていてもおかしくないはずなのにつながっておらず、家族や親類などの共助で何とか日常を過ごしていた方々でした。災害によって、共助ができていた家族や親類も、自分自身のことで精いっぱいとなり、共助だけで成り立っていた生活が成り立たずに、災害からどうやって生活再建をしたらよいのかわからず困っている人が一気に溢れ出しました。「これが、誰かが言っていた災害は社会課題を浮き彫りにするということなのだと思う。」と伊藤さんは話します。

 伊藤さんが、災害ケースマネジメントの枠組みの一部を、福祉が担う必要があると考えているのはこの現実を知っているからに他なりません。

何気ない会話をすることで、被災してからの心の緊張をほぐしていきます

 

☆災害支援に詳しい人と福祉制度に詳しい人☆

 

 被災者の生活再建を目的とした災害ケースマネジメントを進める形として、現在、被災者生活再建支援法が適用された被災地で立ち上がるのが「地域支え合いセンター」です。今年の7月の大雨被害が出た秋田市においても、秋田市から秋田市社会福祉協議会が委託を受け、生活相談支援員を新規に募集して立ち上げられています。

被災した島にお風呂を届けます。

被災者の生活再建において、早期に1件1件についてのケース会議を開始し、見通しを支援者の間で支援計画として共有しておくことが必要になります。そして、支援計画を実行していく中において、スペシャリストとジェネラリストの両輪がどうしても必要だと考えます。このジェネラリストは、時には被災者のアドボカシー(代弁者)として、被災者と専門家との間の橋渡し役として、被災者の通訳として、そして、時には被災者と一緒に悩んだり喜んだりする共感者として活躍します。ジェネラリストが被災者に伴走し、生活再建に必要な制度や専門家へ繋ぎ戻しをしながら、一人一人のケースマネジメントを担います。

唯一の交通手段の船で運びます。

これまで、生活再建におけるケースマネジメントを誰が担っていたのかを考えてみました。災害支援団体がかかわっている場合、被災者へ届けられるのは物資支援や初動の家屋保全が主な内容となり、専門的な事柄については良くて専門家を紹介する程度にとどまってしまいます。平時の福祉の専門職がかかわっていた場合、一時的な避難といった側面で受け入れることができるといった点では被災者の安全が確保され有益ですが、災害の制度については詳しくないため、本人が使える災害支援制度を使いながら生活再建するような支援計画には至らないことが多いです。これが、災害支援についても福祉についても詳しくない、地域の方がかかわっていた場合であれば、安否確認に留まってしまうのはとても自然な流れでしょう。

太陽熱を利用したお風呂が到着。

東日本大震災では、雇用創出支援という意味合いから、対人支援をこれまで行ったことのない地域の方が、生活相談員となり仮設住宅へ見守り訪問を行いました。採用時に研修を受けているとはいうものの、対人支援が専門職となっているのは、誰もがすぐにできることではないからに他ならず、被災者の困りごとを整理して、被災者の日々の暮らしを立て直す(避難所や仮設住宅からの転居という狭義の意味ではない)計画を共に進める伴走支援者として、ケースマネジメントまでを担った生活相談員は、個人の熱意や所属団体の考え方などにより差がありました。また、災害支援団体の中からも、チーム王冠のように、生活再建のケースマネジメントまで担う団体が育つこともありました。この点において、地域福祉の中に新しい資源が生まれていくことにつながっているといえます。それでもなお、10年以上が経過した今でも被災した家屋の修繕が完了できずにその家屋で生活を続けている方がおります。

地域のコンテナハウス集会所。

災害ケースマネジメントは、ただの制度ではないということ。これまでの災害支援の中かからの反省と学びが盛り込まれた、被災地からの魂ともいえる熱い思いがそこには積み上げられています。

 

被災者本人がハンドルを握っている

伊藤さんが最近、災害規模の大小にかかわらず被災者ほぼ全てに当てはまると考えていることがあります。それは自己防衛の反応からくるものだと考えられる、正常性バイアスの影響下に置かれているということです。伊藤さんが、この人被災者だと思い「大丈夫ですか」と声をかけると、「大丈夫です。」と返事が返ってくることが本当に多いと話してくれました。

お茶っこバス

災害ケースマネジメントでは、このような状態にある被災者の方々のところへ出向いていき、第三者として関わり、被災者一人一人がそれぞれに必要なサポートを受けられるよう、公平性が生まれる状態を作ります。この時、被災者と伴走者と専門家は、チームとして生活再建を進めていくことになります。チームを作るうえで、伊藤さんは被災者へ「あなたにしかできないことがあります。」と伝えるそうです。

 

・・・無理のない範囲ですが、これをやるのはあなたです。私たちは応援しますから、強い意志を持って進めていきましょうね。・・・

 

日々の暮らしを立て直す道を走るハンドルを握っているのは、あくまでも被災者本人だということを大切にしているのも、災害ケースマネジメントなのです。

【 話:一般社団法人チーム王冠 代表 伊藤 / 記事:吉田 】

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