誰も取り残さない災害支援⑨=平時からの備え=

☆災害支援を終わらせようとしたときに見えてきたもの☆

 

 ある日突然始まった、チーム王冠の災害支援でしたが、災害という局面が終わろうとしていた時にそれは見えてきました。

そのころになると、災害支援でできることは少なくなってきているにもかかわらず、災害がきっかけで困っている人はまだまだたくさん残されている状況がありました。外部からの継続した支援が必要な方々を、平時の福祉で受け止めることが出来ないかと動いたところ、地域にある福祉の中には1人1人に合わせたオーダーメイドの支援の仕組み、習慣、文化、伝統が無かったのです。災害支援の中に、1人1人に合わせた支援を行う災害ケースマネジメントの仕組みを根付かせたいととにかくいろいろな手段で動いてきた伊藤さんです。当然地域の福祉の中には、1人1人に合わせたオーダーメイドの支援があると思っていたのですが、実際は無いに等しいと思わされたのです。

本人を真ん中にする支援

福祉に携わる支援者はたくさんいるのですが、それぞれの専門領域での支援にとどまっており、利用者が様々な支援に助けられながらも、安心安全に日々暮らしていけるまでの全体をコーディネートする仕組みが無い。この現状が災害時にどのような状況を作るのかを考えてみます。平時において、福祉の専門分野で活動している方々は、それぞれにできる支援の範囲で支援を提供することが出来ます。それは、災害時に何か特別なことが出来ることにつながることは、あまり多くはないことを意味しています。例えるなら、災害によって給湯器が壊れ、お風呂に入れなくなってしまった場合、高齢者であれば入浴サービスを受けることが出来るかもしれません。しかし、給湯器をどうやって直すのかについて、利用者に関わることはほとんどないということです。

 

平時の福祉の中にも、受援者が安心して日々の生活が送れるようになるために、1人1人に合わせた支援をコーディネイトする仕組み(仮に福祉マネージメントとする。)を作ることによって、災害時に災害ケースマネジメントの考え方ができる支援者が増えていくという希望があると伊藤さんは考えています。平時の地域福祉に福祉マネージメントが根付いて、やっと災害支援が終わったと言えるという、終わりが見えてきました。

それぞれの得意なところが違うみんなで、支援の方向を話します

情報共有の仕組み

災害が起きると社会福祉協議会によって、災害ボランティアセンターが立ち上がります。行政の中にも防災本部ができます。そこで動く方々は、通常業務を持っていることがほとんどなので、その業務についても配慮をしながら災害支援をすることになります。大きな災害となれば、被災を受けた当事者でもあります。やらなければならないことが多すぎて、それぞれの場所に集められている被災者の情報が共有されずに、被災者に必要な支援が届かないという場面は東日本大震災の被災地で多くみられました。

災害によって景色が変わります

民間団体では、支援者連絡会議というような情報共有のできる協議体が立ち上がります。これには、発災直後の混乱している時期、災害の状況を共有することで、それぞれの団体ができることを考えて支援につなげて行けたという良い面がありました。改善点があるとすれば、回を重ねていくにつれ、各団体の活動報告会のような内容からあまり変わることがなく、この連絡会議とは別に、個別のケースについて支援者会議が必要となっていたことが挙げられます。

発災直後は災害状況の情報共有の場として、支援者連絡会議を数回行うことは、行政・社会福祉協議会・民間団体の3者にとって利点が多くあります。その後は、さらに医療関係の方々、弁護士や建築士など多くの分野のプレーヤーに参加してもらい、それぞれの場所に集められた被災者の声を、それぞれの状況に合わせてオーダーメイドの支援計画を話し合う場に変えていきたいという理想があります。被災者の声が届いたところでは対応できない内容だったとしても、支援者のそれぞれのできることを合わせ、被災者の状況を少しでも早く変えることにつながる場になっていくという、素敵な構想を話していると話が尽きることはありません。

 

災害は平時にあるものが失われる

災害から人の暮らしが再建することが地域の再建になると伝えたい

 災害ケースマネジメントが制度化されることにより期待する効果として、支援者からの支援が渡しやすく、受援者が支援を受けやすくなるというものがあります。助けてくださいという思いと助けたいと思う気持ちが、うまく合致する場合もあります。一方で、伊藤さんは、「俺は乞食ではない。あなたから施しをされるいわれはない。」と支援を断られることがあったそうです。この方は決して困っていないわけではなかったはずです。実際の支援活動の中で、受援者が支援を受けてよいのかわからずに、甘えていいのかという気持ちや、遠慮する気持ちから「助けて欲しい」ということが言えない方々に出会ってきました。制度化はこのような方々を助けることにつながると考えます。

いつどこで、誰が支援者となって誰が被災者となるのかが分からないのが災害です。困ったときはAさんがBさんを助けましょうと平時に決めていたとしても、災害時にAさんがいなくなってしまう事が起きます。そうなったときでもBさんに支援が届くことが、災害支援に求められることに他なりません。

・・・・大災害はそもそもの関係性をぶっ壊す、備えをぶっ壊すもの・・・

このことを頭に止めていきたい。と伊藤さんは話します。支援者のアウトリーチによる全戸調査は、支援が届かない人がいないようにするためであり、とても重要だと考える理由でもあります。災害時には平時のものが失われます。それでも、平時から災害が起きた場合に、どんな協議体を作るのかある程度決めておくことは支援から取り残される被災者をなくすことにつながります。これは、東日本大震災の支援活動の中から学んだことでもあり、だから伝えられることでもあります。

【 話:一般社団法人チーム王冠 代表 伊藤 / 記事:吉田 】

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