その人なりの働き方を実現するための支援

引きこもりなど「働きづらさを抱えた方々」の居場所づくりと就労支援、
ITを活用した新たな支援や就労形態の構築に取り組んでいます。


ユニバーサル就労支援センターの立ち上げ

※現在は一般社団法人スナフキン・アンサンブルとして活動を継続中

 各地で応急仮設住宅からの生活再建の支援を進めるうち、住宅を再建しただけでは解決しない地域課題も明らかになってきました。例えば、引きこもりの問題などは、応急仮設住宅を退去しても解決せず、再び地域に課題が埋もれてしまいます。

 そのようななか陸前高田市より、働きづらさを抱える方を支援する就労支援センターの立ち上げについて相談を受けます。陸前高田市では、産業支援と就労支援を2本柱とする「ユニバーサル・タウン陸前高田事業」が進んでおり、その中で産業支援の中心となったのが「発酵パークCAMOCY」の立ち上げでした(当時は未着工、その後2020年12月にオープン)。しかしもう一方の就労支援については、先進的な取組を行う「ユニバーサル就労ネットワークちば」の助言を受けながら計画が立てられていたものの、現地で実際の支援を行う担い手がみつかっていませんでした。そこで、隣の大船渡市で被災者の生活再建支援を行っていた共生地域創造財団に声がかかったのです。

 被災者支援の活動の中でも、就労の課題を抱える方の就職活動をサポートするような取組は経験していたものの、様々な企業と連携して行う本格的な就労支援は経験がありませんでした。しかし、大船渡市に住む方も支援対象とする事業であったことから、これまで出逢った課題を地域に埋もれさせないためにも依頼を引き受けることにしました。大船渡事業での支援経験がある職員2名で陸前高田事業所を立ち上げ、2019年6月1日に「陸前高田市ユニバーサル就労支援センター」の開所に至ります。

東海新報センター開所記事

 開所以来、10代から80代まで幅広い年齢層の相談者とそのご家族、他の支援機関等から、これまでに120件以上の相談がありました。中には、震災でご家族を失った方、PTSDに苦しみ就労を諦めていた方もいます。引きこもりの方のご家族からの相談に対しては、本人と接触するため工夫を重ねました。

 障害者手帳をお持ちの相談者もいらっしゃり、そのほとんどが精神疾患のある方です。障害者の就労支援事業所を利用したことがあるものの、続けられなかった方が多く、精神疾患の方の就労の受け皿が必要とされていることが分かりました。センターの立ち上げにより、課題を抱えながら相談できずにいた方や、支援機関につながっていながらも対応困難だった方が顕在化しました。

ユニバーサル就労支援センター

 

グループワークと就労体験 出逢いを創る「関係性の支援」ー

 相談者の中には、働くことへの不安から就労意欲が持てない方もいます。こういった方々に対しては、まずグループワークに参加していただくよう働きかけます。苦手克服やスキルアップのためのトレーニングのほか、内職的な作業を一緒に行う機会も創っています。最初は小遣い稼ぎを目的に参加した方々が、何度も一緒に活動をしているうちに人に慣れ、自然に会話が生まれ、お互いに刺激し合い、就労への意欲を持つようになるケースが出てきました。

 働く意欲が芽生えた方には、企業の協力を得て就労体験の機会を設けます。無償の体験により相談者と企業がお互いを知ることから始まり、段階的に報酬を発生させ、雇用契約まで発展するよう図ります。この方法は企業側にもメリットがあるようで、口コミで協力企業が広がっています。

 グループワークと就労体験に共通するのは、不安を抱える方が安心して誰かと出逢う機会を創る、「関係性の支援」の大切さです。今まで人を怖れていた方であっても、小さな出逢いから変化が生まれることに、活動のなかで気づかされました。

就労体験

 

グループワークで広がる関係性の形

 グループワークの中でも活動初期から定着し、もっとも多くの方に参加していただいているのが、椿葉洗浄の作業です。地元企業「株式会社バンザイ・ファクトリー」にご協力いただき、「椿茶」の原料となる椿の葉を食用アルコールで拭く作業を、就労支援のメニューとして利用させていただくようになりました。作業量に応じて報酬が発生し、それでいてノルマ等の設定もないため、それぞれのスタンス、それぞれのペースで作業に取り組んでいます。少しでも収入を得ようと黙々と作業する方、ほとんど作業せずにおしゃべりをしながら過ごす方、参加の仕方はさまざまです。

 実はこの取組は、もともとはグループワークとして設計したものではありませんでした。なかなか仕事を続けられずにいたある男性に対し、家で作業して収入を得られる機会を提供したいと考えて開始した取組です。しかし、その男性のご自宅の衛生状況に問題があったため、どこかしら作業場所を構える必要が出てきました。そこで「大船渡市社会福祉協議会」(以下、社協)に、作業場所を貸していただけるようお願いし、その代わりに社協の支援を受けている方々にも作業に参加していただいて構わないと伝えて交渉したのです。その結果、複数人で集まって一緒に作業を行う、グループワークの形式になりました。

 コミュニケーションに課題や苦手意識を持つ方が多かったため、初めは一緒に作業していただくことに不安もありました。しかし、会話をしてもよいし、会話がなくても作業に没頭すれば気まずくならないという自由な雰囲気がよかったのか、次第に何気ないコミュニケーションが生まれ始めます。そして、1対1の面談では聞けないような話も出てくるようになったのです。

 また、それまで引きこもっていたような方が、外出の機会づくりのため作業に加わることも増えてきました。参加者が増えてくると、更にいろいろな人間模様が見られるようになります。異性や自分より年下の参加者に対して、自分をよく見せようとするような言動も垣間見られるようになってきました。その延長線上で、それまで就労への意識が薄かった方が、就労に向かって進み始めるような変化も出始めたのです。

 こうして、スタッフとの1対1の関係の中だけでは得られないような効果が、グループワークの中で見られるようになりました。人との出逢いによるこのような変化は、一般的には多くの方が学生時代などに経験することかもしれません。しかし何らかの理由で経験できなかった方々にとっては貴重な機会であることが見えてきました。

 逆に言えば、きっかけとなる出逢いさえあれば、自分の力で前に進める方も少なくないのです。それに気づいてからは、「いかに安心して誰かと出逢う機会を創れるか」を大切にして活動しています。

 

コロナ禍でのIT就労支援 オンラインの活用による新たな出逢いー

 開所から1年が過ぎたころ、感染症拡大の影響で、センターは一時、機能停止に陥りました。新たな支援を模索するなか、プログラミングやホームページ制作を学ぶグループワークをオンラインで実施したところ、今までにない効果が得られました。なかなか支援が進まずにいた重度の引きこもりの方が、自宅から継続的にワーク参加するようになったのです。

 これを発展させ、地域を跨いだオンラインでの就労機会創出にも挑戦しています。東京の企業から在宅求人の紹介を受けたり、千葉の支援団体からホームページ制作の依頼を受けたりし、引きこもりや精神疾患の方が自宅で作業して報酬を得られる機会を創りました。貸出用のパソコンを用意したことで、センターに来て作業する人も増えています。

IT就労支援の様子

 ITの活用により、特に大きな不安を抱える方にとっても、安心して人と出逢うための選択肢が増えました。神奈川で就労支援を行う団体からは、オンラインでの合同グループワークを提案されており、今までに無かった出逢いが広がる可能性も見えつつあります。「関係性の支援」の新たな形を創り出すため、引き続き様々な試みを続けています。

 

活動の発展に向け新団体を設立 ー小さくされたものが広げるアンサンブルー

 2019年から3年間の活動を通じ、地域での就労支援の必要性を実感しました。特に今まで支援が届かなかった引きこもりや精神疾患の方に対する、ITを活用した新たな支援に可能性を感じています。

 その一方で、復興予算が終了しつつあり、行政からの委託事業だけでは活動を発展できません。支援活動と収益事業を両立する、新たな取組が必要です。

 そこで復興支援の枠を越えた活動ができるよう、新団体「一般社団法人スナフキン・アンサンブル」を設立しました。今後は共生地域創造財団から独立し、新団体で就労支援センターを運営しつつ、IT事業で収益を上げ、さらにそこで仕事を創出できる形を目指します。相談者の方々が就職を目指すのと同じように、私たちにとって大きな挑戦です。

 団体名には「周囲に馴染めない人でも自分の芯を持ち、自分なりの方法で誰かを支え、社会に新たな調和を生み出すことを応援したい」という想いを込めました。私たち自身も地域に関係性を広げ、新たなアンサンブルを生み出したいと思います。