誰も取り残さない災害支援⑦=5つのポイント=

☆アウトリーチで重要な視点☆

 

 災害ケースマネジメント宣言(『誰も取り残さない災害支援⑥=災害ケースマネジメント宣言=』参照)の中で掲げている5つのポイントは、東日本大震災の実践の中から生まれてきています。

 

 ②アウトリーチ

住民の被災状況や受援状況の調査は、個別訪問(アウトリーチ)によるものとし、全ての問題解決に至るまで、地域全域に対して継続的に行われなければならない。

チーム王冠のボランティアスタッフさん

 チーム王冠では在宅被災者へのアウトリーチを継続して行っていました。調査員は調査に行く前に、チーム王冠内で1日の研修を受けてから調査の現場に向かいます。被災者の方から100ほどの項目のある調査票(アセスメントシート)を持って聞き取りをするときに、全部を聞く必要は無いですが、必ず2つのことを念頭に置いて聞いてくださいと伝えているそうです。

 1つは「震災前とのギャップ(落差)」、もう1つは「つながり」はとても重要な視点となります。

震災前とのギャップ」は、大きなお屋敷で避難生活をしている被災者の方を訪問したとして、災害前の生活と差があれば、それは災害によって失ったものがあることであって、その人にとっては最低の暮らしかもしれないと考える視点です。また、100世帯くらいの集落だったが、津波で家屋が流され2世帯しか残らなかった場所に住む方にとっては、住まいは無事だったかもしれませんが、地域が失われ、生きがいが失われていたらその落差によって体調を崩してしまいます。住まいは無事だったけど、職場が津波に流されて職場を失ったのであれば、収入を失うことになるので生活の中で落差ができます。災害によってどんな所にギャップが生まれているのかに注意して、話を聞くということになります。

つながり」は、地域全体が被災して皆が大変な状況ではあるが、その人が相談できる家族や親せきがあるのか。友人や知人がいるのか。心配してくれる福祉があるのかを聞くということになります。

聞き取れる内容は発災からの時間によっても変わります。発災当初は、“とにかく頑張らないと”という元気が、何回か訪問を継続していく中で変化がみられることがあるため、継続した訪問が必要な理由です。

地域の美容室も流されてしまい、身支度を整える機会が少なくなることも「ギャップ」

 

☆支援の現状から5つのポイントを見る・ケース2☆

石巻市では地域によって判定が決まっていました。被災者が給付金を早く受け取れることを優先したことから、このような対応となったと考えられます。津波がそれほど高くなかった地域は、1軒1軒個別に調査し判定されました。

冠水時の様子

チーム王冠で支援している1軒の高齢の夫婦の世帯があります。最初の損壊判定は、津波による被害しか判定されず一部損壊、その後そのお宅は地震による地盤沈下の影響で、満潮時には必ず冠水してしまうことが半年続きました。家は3度ほど傾き、床下の地面には亀裂が入っている状態でした。家主さんは10回以上、屋根から雨漏りがすることを理由に判定に不服を申し立て、やっと半壊の判定となります。一般の人が、地震の影響で家の基礎に問題が生じ、家が傾いていることに気が付き申し立てができるのでしょうか。これまでに家の修理に掛かった費用は1,000万円を超えました。

床が基礎から影響を受けている様子

2年後に石巻市は独自支援制度として、半壊以上の判定を条件として、自宅の再建のための支援金を給付します。この老夫婦は、この情報を市報や行政のホームページから得ることが出来ていませんでした。チーム王冠の支援員が定期的に訪問し、話をする中で、自分たちの活用できる制度だと知ることが出来ました。災害復興住宅融資高齢者向け返済特例制度についても、チーム王冠で丁寧に説明したところ、まだ、家の中で直したいところがあるため利用したいとの希望があったので、さまざまな書類を用意して何とか一緒に申請することが出来ました。家の修理がすべて完了し、平らになった家に住み始めた時、奥様から「台所に立つといつも頭がくらくらしていたんだよ。」という言葉が漏れて来ました。いつも「大丈夫だ、大丈夫だ。」と言っていた奥様は、大変な状況にある中で、「大変だ」と言ってしまうと精神的に影響が出てしまうと考え、「大丈夫だ」と思い込もうとしていたのかもしれません。

個別対応と支援の計画を本人中心として進めることが、被災者の生活再建において優先されることだということが分かるケースでした。

床下の様子

 

被災者の傷を回復すること

 

・・・・理想を言えば、災害前にあった状態に戻してあげることを目指したいと思っている・・・

 

災害の後はそれがかなわないことが多いから、せめて、支援者の想像力を使って傷ついたものを被災者と一緒に回復するしかないと考えるのは、当たり前のことだと思っていると伊藤さんは話します。

漁業や農業ができる日常が大切なんです

 被災者に起きることは地震や津波の被害だけにとどまらず、度重なる大きな地震による家屋の損壊、冠水被害、防潮堤による内水氾濫などその後に起きてくることがあります。また、復興災害ともいえるような、復旧や復興の過程の中で、工事の騒音や振動により本来受けなくてもよい苦痛が伴うこともあります。これらは、どんな災害でも起こりえることとして考え、行政や専門機関、民間の支援団体は、被災者をケアしながら生活再建を進めていくことが幸いケースマネジメントの目的だとも言えます。災害ケースマネジメントは、被災者の方々は元の生活に戻ったとはいえずとも、震災による被害が軽減できる最適な生活再建の支援の形を作っていくことが可能な考え方です。そして、行政や専門機関、民間団体はその中でやりきれなかったことや足りないと思うことや制度があれば、次の災害に活かしていくことで、未来の災害で早期に助かる人が増えていく希望がある支援制度だと考えている、と伊藤さんは話してくれました。

【 話:一般社団法人チーム王冠 代表 伊藤 / 記事:吉田 】

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