誰も取り残さない災害支援⑥=災害ケースマネジメント宣言=

☆災害ケースマネジメント宣言☆

 2019年11月19日。石巻市の洞源院にて、「第一回災害ケースマネジメント構想会議」が開催されました。東日本大震災において、在宅被災者など支援から取り残された被災者への支援が必要であり、すべての被災者の生活の再建が支援の軸であると考えている士業の方々や団体などから、約24名が集まりました。この構想会議は定期的に開催され、その中から『災害ケースマネジメント宣言』が作られました。

以下がその内容です。

【定義】

災害ケースマネジメントは、被災者一人ひとりの生活再建に必要な支援を行うため、被災者に寄り添い、その個別状況・生活状況などを把握し、それに合わせてさまざまな支援策を組み合わせた計画を立てて、連携して支援する仕組みのことである[i]

[i] 津久井進『災害ケースマネジメント◎ガイドブック』(合同出版、2020年)6ページより

5つのポイント】

個別対応

災害ケースマネジメントは、被災者ひとりひとりの問題やニーズに対し、必要な全ての支援を行うものである。

アウトリーチ

住民の被災状況や受援状況の調査は、個別訪問(アウトリーチ)によるものとし、全ての問題解決に至るまで、地域全域に対して継続的に行われなければならない。

支援の計画性

支援者は、被災者のニーズや状況の変化に柔軟に対応し、かつゴールを見据えた「支援プラン」を立てるものとする。

支援の総合連携

アウトリーチ及び「支援プラン」の作成と実行にあたっては、行政・社協・民間・専門家等あらゆる社会資源が全ての情報を共有し、共通の目的に向かって活動を行うものとする

平時からの備え

災害ケースマネジメントは、憲法13条・25条を論拠とし、これの実現のためには平時からの防災計画に於いて、シミュレーション・演習や人材育成等が行われるべきである。

 

☆支援の現状から5つのポイントを見る ケース1☆

津波の被害にあった集落

 ある日、津波により壊滅的な被害を受けた集落の方から連絡がありました。その内容は2世帯のうちの1世帯の高齢独居の男性が、この1か月姿が見えなくて気にはなるけど、どうしたらいいかわからないというものでした。伊藤さんはすぐに出向いて行きました。約100世帯の集落、山側の2世帯を残しての全壊流出で、目の前が焼け野原みたいな現場です。隣の方に話を聞いたところ、独居の男性の姿をしばらく見ていないがどうなっているかわからず、一歩が踏み出せない様子があった。

独居の男性の身の上に最悪のことが起きていることも想定しながら、伊藤さんは覚悟を決めて、独居の男性が住むお宅のチャイムを鳴す。当然応答はない。窓を大きな音が出るくらいたたき「○○さん起きてんの?」と繰り返します。裏口にも回り、「○○さん生きてんの?」と呼びかけ続けました。10分ほど大きな音と呼びかけの声を続けていた。あまりにもうるさかったのか、げっそりやせた高齢の男性が家の中から出てきました。

出てきた男性に、食べれているのかを聞いたところ「しばらく食べていない」とのことでした。今思い返せば、震災後多くの人が陥った震災鬱のような精神状態となり、完全に引きこもってしまっていた状態だったのだと考えられます。男性に隣人の方も「元気だった。・・・そんなに落ち込んでたんだ。。。」と声をかけてくれました。その後何日間かは、伊藤さんが訪問し「顔色良くなってきたね」など声をかけていきます。この出来事以来、隣人や地域の方も積極的にこの男性に声をかけるようになり、この男性は、ご高齢ながら仕事を再開し、外にも出歩くようになったという話を聞くまでになっていきました。

津波の通った後の集落

これは、定期的な見守りが、仮設住宅だから、在宅被災者だからといった状況に関係なく、等しく必要なことが分かるケースだと言えます。大震災では、このような見守りが機能せず、残念ながら悲劇につながるケースもありました。この孤立の課題は、復興公営住宅に住む方々にも起こります。災害支援における見守り支援の大切さが、大震災から10年以上が経過する被災地で、被災者の生活再建までを目標に支援活動を続けている現場から見えてくることです。

生活の様子を聞き見守る現場

☆人がちゃんと社会とつながったのか☆

1人1人の状況に合わせて必要な支援につなげる現場

 大きな災害において被災者の居住形態は、避難所→仮設住宅→復興公営住宅と変わります。当然ながらそれに合わせて、被災者に必要な支援も変わっていきます。これまでの傾向として、被災者の居住形態が変わることに合わせて、見守り支援のような個別の支援に対し、行政からの資金提供が減少していき、支援団体の活動が縮小していきます。さらに、復興住宅に入居が完了してしまうと、震災鬱や孤立といった社会課題ともいえる問題は、災害の課題なのか通常の地域福祉の課題なのかが曖昧にされ、課題だけが取り残されます。つまり孤立状態の人が取り残されるのです。このような方たちが、必要な支援につながり初めて安心した日常の暮らしがあると言えます。また、在宅被災者においては、個別の生活再建と並行して、その地域のコミュニティが復興し、安定して初めて被災者の日常の暮らしが復興したと語れるのではないでしょうか。

 

・・・人がちゃんと社会とつながったのか・・・

 

伊藤さんは災害支援の終わりを語るとき、この問いを重要な指標として持ち続けています。

【 話:一般社団法人チーム王冠 代表 伊藤 / 記事:吉田 】 

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