誰も取り残さない災害支援⑤=みなし仮設の被災者と在宅被災者=

☆みなし仮設からの「助けて」の声☆

 

 在宅被災者への全戸訪問調査を進める中で、応急借上げ住宅(以下、みなし仮設と表記。)で避難生活を送る被災者の方々と出会う機会がうまれていました。2011年の時点で一般社団法人チーム王冠(以下、王冠と表記。)は、法律に明記されていないということが理由で、支援から漏れてしまっている在宅被災者とは違い、みなし仮設の方々へは、応急建設住宅(以下、仮設住宅と表記。)同様に、公的支援の対象となっていることに加え、日本赤十字からの災害6点セットなる救援物資など民間の支援団体からの毎日のような手厚い支援が届いていると考えていたところがありました。

 2012年1月~2月。王冠は在宅被災者へ向けて新聞やフリーペーパーに『何か困っていることはありませんか。物資支援ができます。』といった広告を掲載しました。この広告を見たみなし仮設に住む被災者5~6世帯から、「助けてください。」の問い合わせが来たのでした。

被災した1階の床下を乾かすお宅の様子

☆みなし仮設の被災者に起きていたこと☆

 

 みなし仮設からの支援要請が相次いだことから、何が起きているのかをできる範囲でヒアリングし、2012年3月には宮城県内で在宅被災者支援を行っているNPO団体の連絡会議を開き、みなし仮設についての情報を共有しました。この会議には共生財団も参加し、在宅被災者やみなし仮設への支援の必要性を共有しました。当時、みなし仮設の入居状況は、申請先となっている県が詳細を把握していました。県ではデータベースをまとめており、そのデータベースが構築された後、市町村へ情報が共有されることになっているという状況がこの協議会で共有されたのでした。王冠ではみなし仮設にも、公的支援がされるまで在宅被災者同様に支援を実施することを決め、約600世帯へ支援を続けます。みなし仮設のデータが市町村へ共有されたのは2012年4月~5月頃でした。

 その間、みなし仮設への支援は赤十字からの緊急支援物資セットが支給されたことと、2013年1月頃に暖房器具が民間団体によって配送されました(この配送時に状況のヒアリングなどは行っていない。)。心理的負担へアプローチする見守り支援は、2014年3月時点で一割の世帯へ届くような状況です。このような状況の中で、王冠は年2回の訪問を続け、1人1人の話を聞き、その人に必要な支援へと繋げていくことを行っていたのでした。様々な制約や決まりがある中で、その決まりを尊重しながらも、それでも目の前に困っている人がいたら「助けない」という選択肢はないという思いからのものでした。

認知症を抱える世帯では浸水したままどうするかわからずにいる。

☆みなし仮設と在宅避難の被災者に起きていたこと☆

 

東日本大震災では、みなし仮設住宅の入居者が約6万8,000戸となっており、応急建設住宅の入居者の約5万3,000戸を上回りました。みなし仮設への入居を選択する理由は、避難所ではプライバシーがなくストレスを感じる、小さな子どもやペットがいるために避難所には居づらい、介護や支援が必要な同居家族がいるなど様々です。1日でも早く石巻市で生活拠点を確保したいと思っていても、被災を免れた建物は少なく、それは民間の賃貸住宅の例外ではありません。そのため、被災した部屋でもよいと、雨漏りがする部屋や水回りが使えない部屋へ、みなし仮設として住んでいる方々が発災から3年が経過しても居たのでした。

闘病しながらの家屋修繕が進まない様子

みなし仮設にあった特殊な、そして在宅被災者では起きていなかったケースがあります。被災者から「家族を殺してしまいたい。」という心のつらさを聞いたケースでした。日常生活で支援が必要な家族がいる世帯だったため、地域以外の比較的被害の少ない市町村のみなし仮設へ避難したことで起きました。これまでに支えとなっていた地域の専門的な支援や、近隣住民の見守りなどが無くなり、社会的に孤立状態に陥ったのです。誰かに助けられながら日常生活を送っていた世帯だからこそ、その生活を立て直す過程でも伴走した支援が必要です。

在宅被災者でも自力で再建できる人とできない人がいます。王冠が発災半年後に出会った高齢の夫婦は、浸水後片付けられていない1階に住んでいました。年齢相応の記憶力のためか、災害が起きたことは理解しているものの、今の部屋の状態はお互いに相手が“ちらかした”と思っていたそうです。別の在宅被災者のケースでは、罹災判定の結果に対して、生活再建のためにも不服申し立てができることを伝えたところ、“お上に逆らうなんて滅相もない”とでも言わんばかりに恐縮していた高齢者がいたそうです。江戸時代であれば、お上に逆らうことは、即、死を意味していましたが、今は令和です。まして、一住民の不服申し立てが、近隣の罹災判定が変わり不利益を被る責任を負わされるなんてことにならないにもかかわらず。

 

・・・まるで江戸時代の連座だな。・・・

 

被災者の生活再建を、その状況に合わせ支援を続ける伊藤さんは思うのでした。

2階で生活を続ける高齢夫婦の家屋の1階部分

【 話:一般社団法人チーム王冠 代表 伊藤 / 記事:吉田 】

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