つながりを創る⑤==災害と「伴走型支援」岩泉町での実践==
岩手県大船渡市における当財団による東日本大震災からの復興支援は、被災者への伴走支援にとどまらず、被災地域に伴走者を増やすこと、人と人とのつながりを創ることに力を注ぎました。被災地の復興が、少しでも安心して生活ができる地域の創造につながることを願い、支援活動に取り組んでいました。
そんな、実践の中での「気づき」や「学び」をもとに、被災者支援で必要だったこと、大切にしてきたことを以下にまとめてみました。
1.支援開始の前提(そこにあった「想い」と「協働・連携」)(1)使命感(2)つながり(外部・地域の協力)1)基地(仮の拠点を確保) 2)物資(飲料・食料・生活用品などのほか車両の確保) 3)人(現地で動く人、赴いて動く人などの協力者) 4)活動資金(協力金・寄付金) 2.伴走型支援(1)第一の扉 ~つながる(出会う)~1)被災住宅への全戸訪問による生活相談1人1人の状況に合わせた生活再建は、次のように行います。 ①目の前にある不安、困りごとのうち、すぐに解決できるものに即時対応する。 ②少し先にある不安、困りごとのうち、解決可能なものは具体的な見通しを伝え、自ら解決できるよう伴走する。 ③先が見えにくい不安、困りごとは、訪問を繰り返しながら解きほぐし、見通し立てにつながるよう伴走する。
2)何が必要か状態の把握(アセスメント)相談者(被災者)の尊厳を大切にする姿勢に留意し、その後の支援につなげるため、以下の手順で進めます。 ①相手の話をよく聴く。 ②個人情報の取扱いについて秘守や目的を伝え、同意を得る。 ③生活歴や親族・友人関係について話してもらう。 ④相手の話から、心情と困っている内容を明らかにする(推察ではない事実を拾う)。 ⑤希望、意向を確認する。
3)希望、意向をもとに見通しを立てる(支援計画・プラン)被災した世帯の希望や意向の実現に向けた支援計画は、以下の手順で検討され、相談者本人の同意によって決定されます。 ①必要とされる支援を整理する。 ②つながる人、活用可能な社会資源を整理する。 ③支援への参加・協働する人、機関と相談する場をつくる(支援会議の開催) ④協働に参加する人、機関の機能を組み合わせて協働することを合意する。 ⑤対象者に自らできること、支援としてできることを整理して伝える。 ⑥具体的な見通し(今後の伴走内容)を伝え同意を得る。
(2)第二の扉 ~つなぐ~被災からの復興・生活再建は、被災当事者が必要とする「つながり」を再生や創造することから始まります。 ①「物」、「人」、「制度」につなぐ。 ②複数の「人」との持続可能な関係につなぐ。 ③生きて行く「希望」や「安心」につなぐ。
(3)第三の扉 ~つながり続ける~伴走型支援は「つながり続ける」こと、その先にある互いに心配し合う関係は、共生地域の創造につながって行きます。 ①つないだ先に不具合が生じたら、もどし・つなぎ直す。 ②第二、第三の危機に陥ったとき、すぐに助けを求められる関係。 ③支援者・被支援者の関係を超えてつながり続ける。 |
被災地における実践の中の「気づき」や「学び」は、2016年の台風10号によって甚大な被害が発生した岩泉町で活かされていきます。
伴走型支援と災害ケースマネジメント~財団と岩手県岩泉町の関わり
1.平成28年台風10号豪雨災害
平成28年8月下旬、台風10号は岩手県大船渡市の上空を中心に北へと進路をとった。
8月31日、岩手県岩泉町は、それまで経験したことのない豪雨に見舞われ、翌9月1日まで続いた。観光名所である龍泉洞から水が溢れ出すほどの雨量により、幹線道路の崩落、高齢者施設で死者、行方不明者が出るなど、甚大な被害となった。
2.初動
台風が去った後の9月2日、テレビのニュースに被害状況が映し出され、財団大船渡事務所は情報収集を始める。町に通じる道路が応急復旧した後、9月12日に財団大船渡事務所から職員の熊谷と石井が情報収集のため現地入りする。現地では、県社会福祉協議会、OPEN JAPAN(オープンジャパン、フードバンク岩手、いわて連携復興センターなどが参加する災害支援ネットワーク会議において、現状を共有、そこに参加して情報収集を行った。
3.支援活動
1)発災直後~復旧支援期
現地では飲料水の確保が困難な状況があり、フードバンク岩手から飲料水確保について相談を受けた。すぐ様、グリーンコープ、生活クラブの両生協に相談し、飲料水を提供してもらえることとなった。提供された飲料水は、生活クラブ盛岡センターを経由した後、大船渡事務所に運び、フードバンク岩手(当時副代表の阿部知幸氏)と協働して、岩泉町の各地域に設置された支援拠点に配布した。
10月初旬から、大船渡事務所スタッフならびにその家族の有志がボランティアとして現地入りし、家屋の泥出し作業や片づけ作業を行った。二度にわたり、延べ12人が参加した。
2)官民協働の生活相談支援体制づくり
10月下旬、現地ボランティアによる被災家屋等の泥出し、片づけ作業が落ち着く時期が見えてきた。この間、フードバンク岩手(阿部氏)、岩手連携復興センター(大向氏)と情報の共有、今後の支援について相談していた。復旧支援は発災から3ヶ月程度で落ち着く見通しから、その後は生活相談が必要になることを相互に確認し、町(役場)に提案する場を設けることで合意した。
11月10日、共生地域創造財団、フードバンク岩手、岩手連携復興センターの3団体と岩泉町の協議が行われた。役場にて町民課長、地域福祉室長(津島勇士氏)と会談、フードバンク岩手の阿部氏から提案要旨を説明、共生地域創造財団(熊谷)が、被災者の生活再建相談と伴走型支援の効果、進め方を伝えた。課長、室長ともに真摯に受け止めてもらい、実施に向けて動き出すことになった。特に地域福祉室長の津島氏は、相談支援体制を続けて行く上での使える制度や予算の確保に奔走し、官民協働の基盤を創り出す原動力となった。また、地元のNPO法人クチェカ(鈴木悠太事務局長)が現地の実働団体として協働することになった。
この後、12月2日、16日(財団多々良事務局長)と現地で打ち合わせ、21日にはフードバンク岩手の阿部氏が大船渡事務所に来訪し、1月からの事業開始の報告を受けている。
2017年1月、岩泉町、地元のNPO法人クチェカ、フードバンク岩手、岩手連携復興センター、共生地域創造財団、岩手弁護士会に、東日本大震災で被災者支援を行った県内団体が加わり、官民協働の岩泉町被災者等生活相談支援事業として、被災者に対する生活再建に向けた週1回の相談会が開始となった。
また、財団は日本テレビの24時間チャリティー基金を通じ、岩泉の相談支援に必要な物品(パーティション、台車など)を申請し、贈呈品を現地に提供している。
*2017 年 4 月
任意団 体「岩泉よりそい・みらいネット」を結成
*2017年6月以降
月1回の相談会参に相談員を派遣。
*2018 年 2 月
任意団体であった「岩泉よりそい・みらいネット」が法人化に向けて動く中で、財団は設立資金の支援要請を受け、資金協力を行っている。
また、同月に岩泉町からの要請を受け、民生委員児童委員向けの研修に講師として、災害と伴走型支援について講話を行っている。
※現在、一般社団法人岩泉よりそい・みらいネットは、地域共生社会づくりの一翼を担っています。
【 原稿:特定非営利活動法人きょうせい大船渡 熊谷 新二 / 編集:吉田 】