福島事業Projects FUKUSHIMA
背景
福島に寄り添う復興と共生
公益財団法人共生地域創造財団福島事務所は、2022年5月に活動を始めてから、3年余りが経過しました 。この間、私たちは東日本大震災と東京電力福島第一原発事故から15年になろうとしている現在の福島の状況と、避難生活を送る方々の抱える課題に真摯に向き合ってきました。
現在、原発事故で大きな被害を受けた浪江町の住民登録は約1万5千人であるものの、実際に町に暮らす方は未だ1割に届かない状況です 。多くの方が、避難先の二本松市などで復興公営住宅や新しい住まいでの生活を続けておられます 。しかし、年月が経つほどに、避難生活の長期化に伴う高齢化や、かつてのコミュニティの繋がりが断たれたことによる孤立の問題が深刻化しています 。全村避難となった川内村、葛尾村でも故郷に戻った方々の暮らしは、ものと暮らしとは違ったものになっています。
私たちは、このような状況の中で、誰もが安心して暮らせる地域社会を再構築することが喫緊の課題であると認識しています。そして、この避難先の地でこそ、「誰もひとりにしない地域」をつくるという目標が、最も重要な復興への取り組みの一つとなっているのです。
私たちの思い真の復興とは
復興は、単にインフラや技術、産業の再建といった物理的な側面の充実だけで進められるものではありません 。私たちは、震災によって一度は分断されてしまった「人と人とのつながりを取り戻すこと」こそが、本当の意味での復興であると考えています。
ふるさとに帰った方、ふるさとに帰ることが難しい状況下にある方、思いは複雑なままです。そのような中、ここ二本松という避難の地で「ここにいてよかった」と心から感じられるような居場所をつくりたい 。それは、どのような人も安心して立ち寄ることができ、その人の背景や思い、状況を問わず、そのままで受けとめられる場でなければならないと強く感じています 。福島事務所は、活動の中で出会う人々にとって、心の拠り所となり、新しいコミュニティの種を育む大切な基盤となります。
実績
小さな出会いと継続的な関わり
葛尾村「かつろうさんげ食堂」での経験
震災により全村避難を経験し、現在も帰村人口の低さと単身・独居の課題を抱える葛尾村において、村の未来につながる新しいコミュニティ創造を目指し、2023年5月より一般社団法人葛力創造舎様と協働で「かつろうさんげ食堂」を開始しました 。
この食堂は、「月1回の食事会」を通じて、住民の皆様が孤立することなく交流できる機会を創出することを目的として開催されました 。活動開始後、3回の食事会で約180食の食事を提供いたしました 。福島風力合同会社様とも協働し、カレーや豚丼、地元の食材(ふきやわらび)を使った煮つけなどを提供いたしました。
居場所「オープンドア」を中心とした実践
私たちが抱く「誰もひとりにしない地域をつくりたい」という思いを具体的な形にした、交流拠点「オープンドア」があります 。オープンドアは、週に3日から4日開かれており、避難してきた方々も、地元地域にお住まいの方々も、そして子どもから大人まで、誰もが気軽に訪れることができる場所として運営しています。
ドアを開けると、淹れたてのコーヒーの香りが漂い、スタッフが心を込めて作った手作りのお菓子が並び、読書のための本や、心地よい音楽が流れています 。ここは、話したいときには誰かが温かく耳を傾けてくれ、静かに過ごしたいときにはその気持ちが尊重される、訪れる人々のペースが大切にされる空間です 。私たちが最も大切にしているのは、この場所で「来ていい」「いていい」と心から思える感覚です。
多様な交流と心のつながり
オープンドアでは、日常的な交流の場だけでなく、定期的な交流プログラムを実施することで、人と人との距離を縮める機会を意図的に創出しています。
- 「みんなde ごはん」(みんな食堂)
- 月に3回から4回開催しています。みんなで一つの食卓を囲み、共に食事を楽しむ時間は、参加者同士の間に自然な笑顔と会話を生み出し、お互いの距離を縮めるきっかけとなります。
- 「おしゃべり会」
- 月に一度、定期的に開催しています。この会では、参加者が故郷・浪江の思い出や、震災の経験を語り合い、旧知の友との交わりを温める場面が多く見られます。一緒に食べ、笑い合い、時には真面目に語り合ううちに、時間はあっという間に過ぎていきます。
- 季節のイベント
- 地域の方々を巻き込んだ夏祭りなどのイベントも開催し、ヨーヨー釣りなどを楽しみながら、多様な人々が共に語り合うひとときを創出しています。
オープンドアでの日々の小さな交流の積み重ねこそが、バラバラになりかけた人と人を結びつけ、新しい関係性を育む揺るぎない実績となっています。
活動から得られた学び
これらの活動を通じて、私たちは重要な学びを得ています。避難者の多くは「帰りたいけれど帰れない。でもつながりは失いたくない」という複雑な思いを語ります 。人は、土地だけでなく、人との関わりの中で生きているという現実を強く実感しています。
このことから、私たちが学んだのは、孤立を防ぎ、人々の安心を支えるのは、莫大な資金を投じる「大きな支援」ではなく、日常の継続的な中で生まれる「小さな出会いと継続的な関わり」であるということです。オープンドアは、その継続的な関わりを生み出し、維持していくための土台として機能しています。
今後の課題
共に生きる地域を共につくる
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「誰もひとりにしない町」の実現へ
これまでの実践と実績を基盤として、福島事務所は今後も活動の軸をオープンドアに置き、誰もが安心して過ごせる場所を地域全体にさらに広げていくことを今後の最大の課題とします。
私たちは、困難や苦労を抱える方々に対し、これまで以上に丁寧に向き合い続けることが求められています 。そして、単に支援を提供するだけでなく、その方々が必要とする資源やサポートを、地域の中で一緒に見つけ、ていくという「共創」の姿勢を大切にしたいと考えています。この継続的な取り組みの積み重ねが、やがては「誰もひとりにしない町」の実現へと確実につながると信じています。 -
専門機関との連携強化
また、私たちはオープンドアを、単なる交流の場に留めることなく、地域社会全体を支えるためのハブ機能を持たせて育てていきたいと考えています。
具体的には、地域の専門職(医療、福祉、教育など)や、他の支援団体との「横のつながり」を積極的に広げ、情報を共有し合う場としての役割を強化します。これにより、一団体だけでは対応が難しい複雑な課題を抱える方々に対しても、地域全体で連携し、切れ目のない包括的なサポートを提供できる体制を構築していきます。
二本松から始めた小さな実践を、その地で暮らす全ての人々の暮らしに根ざした「共に生きる地域づくり」へと大きく、そして力強く育てていきます。